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スナフキン(無職)「やりたくないことをすることさ」
やりたいことをするために、普段はやりたくないことを仕方なくやっているつもりなのですが、その「やりたくないこと」の比重が否応なく増してきて恐怖なこのごろです。炎上こわいデスマーチこわい。
念のために言っておきますが、これは「まんじゅうこわい」の類ではありません。
なんかいつも忙しそうに夜遅くまでバタバタしている人たちが近くにいるのですが、なんかもうハタから見ていてもちょっと頑張りすぎじゃないの? って思うくらいで、大丈夫なのかしらってなもんなのですが、ある日その人たちがこんなことを言いました。
「家に帰っても特にやることねーんだよなー」
「そうですよねー」
……ああ、だから忙しい忙しいって言いながらもちょっと嬉しそうなのね。
理解できん。
休み中に久しぶりに短いSS書きました。
穂積名堂さんの合同誌以来なので、SS書くの十ヶ月ぐらいぶりです。
某板の某スレに投稿したものです。特に言ってませんでしたが、某板の投稿系スレのほとんどに投稿したことがあったりします(いじめスレ除く)。
百合注意。
私はどうにも、姫様の笑顔しか思い浮かべることができない。
春夏秋冬朝昼晩、満月の日も新月の日も三日月の日も、姫様の口元から穏やかな笑みが消えることはない。
より正確に言うと、「私に向けられる姫様の表情」は、いつも微笑んでいる。
妹紅なんかと話すときには、姫様も感情をむき出しにすることがある。それに、あるいは師匠と二人きりのときなんかには、また違った表情を見せているのかもしれない。
でも、それはどちらも私に向けられたものではないので、やっぱり私にとって姫様とは笑顔なのだ。
「あらどうしたの鈴仙、ぼんやりして」
珍しく師匠もてゐもいない晩に縁側でぼうっとしていると、向こうから涼やかな声がした。
姫様は滑るように音もなく足を進め、流れるような所作で私の隣に腰を下ろした。
「月から何か聞こえてきた?」
「いえ、その、ちょっとぼうっとしていただけで」
「ん、そう」
姫様は特に気にした様子もなく上弦の月を見上げ、目を細めた。長い睫毛が冷たい光に濡れて、まるでそれ自体が発光しているように見えた。もしかしたら本当にそうなのかもしれない。何しろ名前からして、夜に輝いているのだし。
「そうね」
くすり、と笑いを含んだ声で姫様は続ける。
「心地のよい夜だもの、ぼうっとするわね」
一体何がそんなに楽しいのだろう、姫様は夜空から視線をはずし、真っ暗闇の竹林に眼を向けた。緩やかな風が、笹の葉をさわさわと揺らす。まるで竹たちが姫様に見られたことに照れているようだった。
実際、この人ほどの人物なら、視線を向けられただけで赤面してもおかしくないのかもしれない。輝けるその肌は雪のように白く、切りそろえられたその髪は墨のように黒く、静かなその瞳は空のように深い。師匠も凄い美人だけれど、姫様もまた吸い込まれそうなほどに美人だ。
というか実際、千年前はそれで死人すら出た。とてもじゃないけど、本来なら私がどうこう言えるような人じゃない。月の姫と兎じゃあ格が違いすぎるわけで。
数十年前に私がここへたどり着いたとき、姫様は御簾の向こうにいた。でも緊張と疲労で私が何も話せずにいると、姫様は自ら姿を見せ、私が落ち着くまでそばにいてくれたのだ。言葉少なに、でも心が安らぐような口調で、私の警戒心をほぐしてくれたのだった。そして、私の話を聞き終わると、いいとも悪いとも言わず、そう、とただ受け入れてくれた。
あるいはそれは、私から情報を引き出そうとするテクニックだったのかもしれないけれど。でも、私がそれで、とても救われたような気分になったのも確かだった。だから、それでよかったんだと今では思っている。
「ん、なにかついているかしら」
そんなことを考えていたらいつの間にかじっとつめ見ていたんだろう、姫様は私を見て首をかしげた。やっぱり微笑んでいる。
「あ、いえ、えと、その、た、楽しいのかなって」
見とれてましたなんて言えるはずもないので、私は口ごもった挙句に変なことを口走った。
「楽しいって?」
姫様は少しだけ不思議そうに眉を上げ、そのまま言葉を返してきた。言ってしまった以上引っ込みが付かないので、私はしどろもどろになりながら続ける。
「あの、ほら、姫様って月とか竹なんてもう何千回も見てるのに、その、楽しいのかな、って……」
喋るごとに、どんどん尻すぼみになっていった。私はひょっとして今、とても失礼なことを言わなかっただろうか? 何千回どころじゃないだろうとか、そういう話ではなくて、なんというか。
私は恐る恐る姫様の表情を見やり……安堵と、そしてちょっとだけ失望を覚えた。姫様は怒るでもなく、やっぱりにこにこと笑っていたからだ。むしろ、少し笑みが深くなったようにも見える。
「年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず」
「え?」
姫様は再び星の海を見上げ、桜色の唇から漢詩の一節のような文章を呟いた。
「なるほど、私は月なんて数え切れないほど見てきたわ。でも、今日、貴方と見上げた月は、今日だけのもの」
歌うように言葉をつむぎ、姫様はするりと立ち上がった。
「楽しかったわ、鈴仙。また今度、一緒に月見をしましょう」
なんだか狐につままれたような気分で、私は一人縁側に残されている。姫様のあの言葉の真意は、どういうことだったのだろう。
歳歳年年人同じからず――そういえばいつだったか、姫様は「一瞬でも昔のことはどうでもいい」と言っていた気がする。一秒だったかもしれないけど。そう、あの人は永遠の人なのだ。あの人は永遠だけど、私は永遠ではない。いつかはきっと、姫様や師匠を置いて死ぬのだろう。だから今日、ひいては私のこともある意味では貴重で、ある意味ではどうでもいいと……そういうことなんだろうか。
「かなわないな……」
「何がかしら?」
突然背後から声が聞こえて来、驚いて振り向くと、そこにはいつの間にか師匠がいた。用事を終えて帰ってきたのだろう、姫様と同じような所作で私の隣に座る。
「輝夜に何か言われた?」
「な、なんで分かるんです?」
「なんとなくね」
私はまた驚いたけど、よく考えれば師匠と姫様はそれこそ長い長い付き合いだ。お互いに感じ取れるところや、私では及び知れない何かがあるんだろう。
私が姫様との会話を話すと、師匠はふぅん、とわずかに不機嫌そうな顔を見せた。
「年年歳歳、ねぇ……ちょっと妬けるわね」
「な、なんでです?」
いきなり妙な単語が出てきて、私はあわてた。それを見た師匠は一転して意地悪そうな笑みを浮かべ、続ける。
「古人(こじん)復(ま)た洛城の東に無く、今人(きんじん)還(ま)た対す落花の風。その直前の節よ」
「はぁ……」
そんなことを言われても、私には意味が分からない。しょうがないわねえといった様子で師匠が解説する。
「『昔の愛人はもう洛陽にはおらず、今また若い恋人同士が風に散る花を眺めている』。私を死んだ昔の愛人扱いするなんて、後で文句を言わなくちゃいけないわね、ふふふ」
「はぁ……って、えぇっ?」
暗ーく笑う師匠にあきれていると、あることに思い至り、私は素っ頓狂な声を上げた。「昔の愛人」が師匠だとすると、「若い恋人」っていうのはつまり、ええと……
「そういうことよ」
今までの表情は全て演技だったのだろうか、師匠は優しげな瞳で私を見ていた。
「あなたが思っているよりは、輝夜はあなたのことを気にしているわ。だから、あなたが引け目に感じたり、遠慮したりすることないのよ」
「そう、でしょうか」
「何、私の言うことが信用できないの?」
「あ、いえ、そういうわけでは」
そう、なんだろうか。
姫様が私に対してずっと笑っているのは、師匠や妹紅ほどには私に心を許していないからだと思っていたけれど。
もしかしたら、私が気づいていなかっただけで、また違った意味合いも含まれていたのかもしれない。
「輝夜」
「え?」
私の心の迷いを見抜いたように、師匠は姫様の名前を口にした。
「立場上、私は輝夜に仕えていることになっているわ。だから、対外的な場所では私は輝夜を『姫』って呼ぶけど……」
そうだ。私がここに来たばかりのころ、私の前では師匠は姫様のことをそう呼んでいた気がする。そういえば、いつから師匠は私の前でも「輝夜」と呼ぶようになったのだったっけ?
「輝夜があるとき言ってきたのよ。『もうあの子に何を他人行儀にする必要もないでしょう?』って。このことをよく考えるのね」
他人行儀。
御簾の内側にいたのは、果たしてどちら?
私は立ち上がった。姫様は、もう部屋に戻ったんだろうか。
眠る前に、もう少し話をしたくなった。
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古人復た洛城の東に無く
今人還た対す落花の風
年年歳歳花相似たり
歳歳年年人同じからず
言を寄す、全盛の紅顔の子
応(まさ)に憐(あわ)れむべし、半死の白頭翁
此の翁白頭真に憐れむべし
伊(こ)れ昔紅顔の美少年
昔の愛人はもう洛陽にはおらず
今また若い恋人同士が風に散る花を眺めている
毎年花は同じように咲き誇るけれど
それを見る人は毎年移り変わってゆく
今が盛りの美しい若者が語りかけてきた
あの白髪の老人は可哀想なことだ、と
確かに、この老人の白髪は哀れなものだ
だが、彼も昔は紅顔の美少年だったのだよ
死なない人が歌うと凄く皮肉な感じがする。
この漢詩には幾つかの解釈があるようですが、一番都合の良い説を採りました。
古人で愛人っていう意味があるのかは、実際知らんです。
詳しい人はどうかお見逃しください。