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子供のときの読書感想文も大概ですが、もっと恐ろしいのは大人になってから書かされる感想文だと思います。
それは例えば社長が書いた「私の人生」みたいなクソの役にも立たないような本であったり読んでいるだけで気が遠くなってくるような実用書であったりするわけですが、恐ろしいのは、子供の読書感想文は何を書こうがせいぜい先生に怒られるくらいですが、大人の感想文は一手間違えると人生がエンドします。
そう考えると、子供のころの読書感想文なんてまだマシだったのでしょうか。滅べ。
凡用人型兵器です。
というわけで以下、例によってあんまり重大なネタバレはしていないつもりですが、そういうの気にする人は気をつけてください。
『宴は短し走れよ乙女 少女秘封録』
作:浅木原忍さん
この感想文シリーズでも何度か取り上げさせていただいたRhythm Fiveさんの本ですが、なぜか今まで取り上げてこなかった「少女秘封録」シリーズの新刊です。最初から読んではいたのですが。
去年始まったシリーズなのですが、この夏で四作目、計五冊続いていらっしゃいます。
それ以外にも何冊も出していらっしゃいますし、想創話に投稿されたり、ご自身のサイトに連載されたり、ニコニコするアレに投稿されたりと……私は作者である浅木原さんご自身のことはよく存じ上げないのですが、恐らく三人くらいいらっしゃるのだと思います。
小説の話をします。
まず少女秘封録シリーズについて説明させていただきますと、その名の通り秘封倶楽部の二人が主人公なのですが、基本的に「外界」オンリーで話が展開され、幻想郷の人物や超常現象の類も出てこない、という東方SSとしてはなかなか異色の存在です。
「ミステリー風味小説」と称してらっしゃるように、日常に潜むちょっとした謎、不思議な出来事に秘封倶楽部の二人が気づき、考え、謎を解き明かす……というのが毎回の流れでしょうか。謎を解き明かしても特に何かが劇的に変わるわけでもないというのも特徴です。
そんなんで面白くなるのかと思われるかもしれませんが、これがまた面白い。
語り手にしてワトソン役のメリーが語り手として実に過不足なく、上手い具合に読者を謎に引き込んでくれ、ホームズ役のバイタリティあふれる蓮子が披露する真実がとてもすっきりしており、また少しばかりしんみりするものであったりして、毎回読ませてくれます。
しんみりするといってもバッドエンドということではなく、少しばかりのすれ違いや思い違い勘違いが謎として現れ、それを解明していくことで、あまり人付き合いのよくないタイプであるメリーが他者とかかわり、否応なしに色々と思いを抱き、また受け取っていくというところが僕は好きです。僕自身もメリーと似たようなタイプなので。まあ。
ただ、僕はミステリー小説を読むときも自分で推理とか一切しない人間なので、そういうのをする人はまた違った感想があるのかもしれませんが。
また、物語の小道具として現実に存在する本が多用されるため、小説好きな人にはオススメしたいシリーズです。この作者さんといえば百合小説で有名ですが、このシリーズにはそういう描写はない……いや、あんまりない……と思うので、そちらが苦手な方もぜひ。
で、ここでようやく今回の本の感想になるのですが、作中のあとがきでも書かれているように、今回は今までの一話読みきり形式ではなく、シリーズの中の一作という位置づけで、これまでに登場したキャラクターが再登場したり、今後に向けての意味ありげな伏線が張られていたりしました。
また、今回の底本である『夜は短し~』についても既読であったため、色々とニヤリとできて面白かったです。
今回は謎の解明というよりはドタバタ劇のような感覚で読んでいけ、シリーズのファンである僕としてはとても楽しんで読めましたが、今回が初という人にはシリーズの醍醐味みたいなものは伝わりにくいかなーという気がします。まあそんなことは僕が気にすることではないんですが。
なんだかシリーズの感想になってしまいましたが、どうやらまだまだ続いていきそうなシリーズですので、これからの展開にも期待したいと思います。
『聖白蓮さん、あなたに仏のお恵みを』
作:仮面の男さん
タイトル、表紙、分厚さとあらゆる点で異色の同人誌。でもこれでも薄めらしいです。なんてこった。
東方星蓮船の前日談、そして後日談を四編の短編としてまとめています。
その中でも特筆すべきは、白蓮の弟の死から魔法使いになるまでを描いた、表題にもなっている『聖白蓮さん、あなたに仏のお恵みを』と、魔法使いになってから封印されるまでを描いた『寅よ! 寅よ!』の二編でしょうか。というか、実質この二作がメインと言ってもいいかもです。
僕は東方で嫌いなキャラとか特にいねえんですが、人によっては白蓮のことを「独善に過ぎる」「善意の押し付けだ」と思うこともあるようです。まあそういう側面もないではないと思いますが、この本では彼女はなぜそういう思想を持つにいたったのか、なぜそういう行動をとるようになったのか、そしてなぜ封印されるにいたったのか……星蓮船の背景とも言えるこれらの事柄について、およそ300ページほどを使って描写しています。(全420ページくらい)
弟の寺を没落から救いたいという願いから始まり、人間として・僧侶として堕ちきりながらも力を得たいと思い、力を得てから人々を救い、彼女の願いが徐々に変質し、善意の怪物と化してゆくまでを訥々とした筆致で描いています。当然オリジナル展開・設定が多分に含まれており、その経緯や結末は作者さんの想像や解釈によるものですが、特に気になりませんでした。というかもうこれが公式でいいんじゃないかな。
淡々としていながらも読むものを飽きさせないのは、語り手である白蓮や星の感情や心の動き、それぞれの綺麗なところも醜いところも精細に余すところなく描いているからだと思います。その分、『聖白蓮さん~』では本人も繰り返し言っているほどに浅ましい人間であった白蓮が『寅よ! 寅よ!』において人間性を失っていく様がうわーうわーって感じで心に迫り、登場人物たちの有様が色々と打ちのめされます。結末はすでに分かっているはずなのですが、これなんとかなんねえのかよ、と思わせるものが。
そして現代に戻り、本質的には何一つ変わっていないながらも、最後の節にての白蓮の言葉を読んだなら、少なくとも単純に彼女の事を独善的だといえる人はいないのではないか……そんな気がします。
派手さやケレン味のようなものはあまりありませんが、読み終えた後に深く心に残るものがある本でした。
あと特筆すべきこととしては、寅丸さんがちゃんとしっかり毘沙門天の代理をしてました。最近うっかりキャラの彼女ばっかり見ていたので、まじめな彼女を書く人がちゃんといてほっとした次第です。
また、気になった点を挙げるとするなら、遠い過去の出来事(人)の話であるのに、文中に時折「まじで」「ショックで死ぬ」「超特急」「いい感じに」といった現代風の言葉遣いが含まれているという点でしょうか。細かいことなんですが、全体の雰囲気からぽんと逸脱していて、ちょっと気になったです。あと英字タイトルがミセスホワイトロータスになってた点。み、ミズとかにしとこうよ……
『永劫残夢』
作:紫さん
幻想郷で巻き起こった、刃物による連続殺人事件。一時容疑者扱いされた妖夢は、魂魄の剣とその思いに対する矜持から、真犯人を探そうとするが……
こ、この本は表紙詐欺ではないのか!?
いや、厳密には表紙詐欺ではないのですが、だけどなあ、うーん……
あ、面白くなかったとかそういうことではないです。面白かったです。
ただ、表紙がアレなのでおもっきしミスリードされたというか。狙ってされたのでしょうか。だとしたら大成功だと思います。
さて。
この本は剣劇アクション小説と銘打っているだけあり、130ページほどの本文中、50ページほどがアクションシーンで構成されています。アクションシーンに関しては面白かったの一言です。この辺はさすがというか、貫禄すら感じました。血ィとかドバドバ出てるし腕とか足とか吹っ飛ぶんですが、あんましグロいとか残酷とかいう感じがなかったのは個人的によかったです。あんましそういうの得意じゃないので。
ただそれ以外の部分が説明不足というか、あのアヌビス神のスタンドみたいなのって結局なんなのとか、犯人(仮)ってなにがどうしてどうなったのとか、幽々子と真犯人の間に何があってどうなった結果ああなったのとか、恐らくあえて説明しない形を取ったのだと思いますが、説明してくれても、というか、説明してくれたほうがよかったです。
うむー。あと50ページくらい長くてもよかったのでは。面白かったので消化不良気味なのが残念です。
『反魂蝶』
作:反魂さん
唐突な妖忌の帰還、そして幽々子の……
かつて妖忌が行方をくらました理由、妖夢にかの二刀が預けられた理由。そしてその時が来たなら、妖夢はどうするのか……
このタイトル絶対狙っただろ……と思いました。出オチ的な意味で。
反魂さんの文章といいますと、口語ではまず使わない熟語や漢字の連発により、漢文風味というか、独特な文体であります。それは今回のような硬い文体が似合う話にはとても合致しているのですが、欠点は振り仮名が振ってないと読めないということで、今作においてはちゃんと振ってあったので読めました。助かりました。
さて、妖夢といえば迷い、迷いといえば妖夢です。
これはクリフトといえばザラキというようなもので、これを抜きにして彼女を語るのはとても難しい。
彼女はそこそこに強く、立場がはっきりしており、かつ未熟者という抜群の主人公適性を持っているため、ことあるごとに色々な人によって悩まされます。しかしそんな彼女をもってしても、今回の迷いはヘビーであると言わざるを得ません。作中でも描かれていますが、妖夢が剣を修めたこと、楼観剣と白楼剣を受け継いだことがすべて「その時」のためであったとするならば、自分は何のために今までやってきたのか、どうすればいいのか、と死んだ魚のような目にもなろうというものです。
それに対して作者である反魂さんは、「宿命」と「運命」という言葉を提示しました。似て非なる言葉であるこの二つを用いることで、妖夢は迷いを晴らし、そのときを迎えることができました。この辺の言葉の組み立てや、作中の男性の独白によって、無理なくかっこよく妖夢を戦わせることができたと感じています。僕は文章を書くときに言葉の使い方とかあんまり考え(られ)ないので、こういう組み立て方のできる人は素直に尊敬します。
人が死ぬ話……というとなんだか途端に安っぽく感じるというか、世界の中心で勝手に叫んでろという気分になるというか、ぶっちゃけ人死にで感動を誘う話は嫌いなもので、誰かの死をテーマにした話というのは僕の中で評価が辛くなりがちなのですが、迷いをテーマに置いたことで話に移入しやすく、さわやかな読後感すら得られる作品だと思います。
あと阿求が謎の優遇を受けていたところも個人的に高ポイントです。阿求可愛いね。
こんなところです。
またたまったら感想書きます。