なんかいろいろ。
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【雪融け】
「隣、いいかしら」
忽然と現れた気配に声をかけられ、ナズーリンは動揺を押し隠しながら視線を巡らせた。いつの間にか自分の傍らに、人当たりの良い笑みを浮かべた清楚な雰囲気の少女がいる。
「好きにするといいさ、大体私の家じゃないんだし」
突き放したような物言いにも彼女は気分を害した様子はなく、では失礼、と愛想よく腰を下ろした。周囲に気は配っていたはずだが、とナズーリンは心中いぶかしむが、すぐに馬鹿馬鹿しくなってやめた。彼女たちはどこからでも現れることができる。ましてや、壁抜けの技能を伝承に残す彼女は特に。
「まだ会談は終わっていないだろう?」
彼女、霍青娥とは視線を合わさず、ナズーリンは尋ねた。腰掛けた縁側から眺める神社の境内は紅葉も終盤を迎え、木々は寒々しい姿を風に晒している。遠くに見える妖怪の山、その頂きは既に色をなくしており、これから一月もかけてそれは裾野へ、そしてこの神社へも広がってゆくのだろう。
幻想郷に冬が訪れようとしている。
「冷えますね」
同じことを考えていたのだろうか、同意を求めるでもなしに青娥は呟いた。よく通る、心地よい声だ。きっと歌も上手かろうと、ナズーリンは思った。
「貴方のほうこそ、会談に出なくてもいいのかしら? ナズーリンさん」
青娥が自分の名前を知っていることに、ナズーリンは別段驚かなかった。むしろ、彼女が自分の思っているような人物だとするなら、当然知っているだろうと考えていた。その想像が当たっているかどうかは、次に自分が発する言葉に青娥がどう反応するかによる。
「私は戦うのが苦手だからね」
肩をすくめて、答える。くすり、と青娥が笑った。
「私も、あの方たちとまともに渡り合う自信はありませんわ。だから、事が始まる前に中座してきたの」
「なるほど、お互い辛いところだね」
深くうなずく。それで通じた。
「この会談を提案したのは、貴方でしょう? ナズーリンさん」
「そうだよ。博麗の巫女に立会人になってもらうのもね。面倒そうにしていたが、幻想郷の平和のためと言われれば彼女も断れないさ」
奥の座敷では現在、命蓮寺の主要メンバーと神子一派による会談が行われていた。過去の経緯により険悪な関係にある両者を引き合わせ、とにもかくにも話し合わせる。それで対立による緊張が緩和されれば何よりであった。
とはいえそう単純な話ではない。
「交渉の場を設けるというのは私も考えていたわ。けれど、建設的な議論になるとは思えなくて躊躇していた」
「君がそう言うということは、やはり場の雰囲気はまずいかい」
「ええ。トップのお二人はさすがに冷静だけど、後ろに控えている子たちがね。まあ、口だけではなく手が出るのは時間の問題かしら」
「そうなればさすがの聖も、みなを守るために手を出さざるを得ないか」
君のところもそうだろう、と言外に含ませてナズーリンは息を吐いた。気配だけで、青娥がうなずくのを感じ取る。
「布都も屠自古も熱しやすいタチだから」
貴方のところもそうでしょう、と言外に含ませているようだった。ナズーリンとしては苦笑する他にない。
「このまま引っ込みが付かなくなって全面戦争、というのは今は避けたいわね。対外イメージもあるし、私たちはまだこの地に確固たる地盤を築けていない」
「問題ないさ。そのための霊夢だし、あの二人も本当は分かっているはずだ」
白蓮と神子も落としどころは弁えているし、なんとなれば霊夢が全員ボコボコにしてくれるだろう、と言うナズーリンに青娥は目を見開き、続いてわずかに残念そうな表情を浮かべた。
「信用しているのね」
霊夢と、白蓮と、そしておそらく神子をも。青娥のその表情は、果たしてナズーリンへの羨望か、それとも失望か。そこまで読み取ることはナズーリンにはできなかった。
「お人よしがうつったのかもしれないな」
嘯くナズーリンを青娥は見つめ、そのまま少し時間が流れる。
「私はね、強い人が好きなの。強い人が私のおかげで成功するのは、もっと好き」
何かが割れるような音が奥から聞こえて来、注意をそらしたわずかなタイミングに滑り込むように青娥は言った。
「そうかい。まあ私も似たようなものだよ。みんな仲良く、さ」
「仲良く、ね」
「君のボスだって似たようなことを言っているだろう」
「ええ、古今東西、聖人は誰もが似たようなことを言う。けれど、そうはならない。何故か……?」
挑戦的な視線を向けられ、ナズーリンは軽く息を漏らした。
「決まってる。私や君のようなのがいるからさ」
問答に付き合う気は無かった。しかし青娥は、ナズーリンの答えを気に入ったようだった。
「ふふふ、対立を作るのが私たちなら、融かすのも私たちということですわね」
奥が騒がしくなってきた。どうやら乱闘が始まったようだ。
「暇なら酒宴の準備でもしていてくれないかな。私は軟膏や包帯を取ってこよう」
「うまくいくと思っています? かつて外の世界であった冷たい戦争……それを終わらせたのが結局何であったか、知らない貴方ではないと思いますが」
縁側から腰を上げて、ナズーリンは青娥を見下ろした。その本性を押し隠した澄んだ瞳――いや、もしかすると彼女は本性を隠してなどいないのかもしれない。どこまでも純粋で、素直で悪気なく、ひたむきな仙人――目をそらすのを待っていたかのように、青娥は言う。
「まあ、今回は貴方の提案に乗っておきましょう。貴方とは、これからもいい関係を築いていきたいですからね」
「それはどうも」
嘆息して視線を戻すと、来たときと同じように、青娥は忽然と消えていた。
「聖も聖徳王も、私の考えくらいはお見通しだろう。その上で私の提案に乗ってくれたということは、和解の目はあると思っていいはずだ」
この場にいない青娥へ聞かせるように、ナズーリンは一人呟く。
「君の望む世の中は、ここでは実現させないよ。雪が融ければ、あとは春になるだけさ」
しかし、もしかすると青娥ならば、とナズーリンは思う。そう思うのはナズーリンだからこそかもしれない。本当に警戒すべきは個人では大した力を持っていない者である、ということを知っているナズーリンだからこそ。
「マミゾウにでも相談しておこうか。化かし合いは得意そうだし……」
まったく嫌な役割だ、と思案をめぐらせながらナズーリンは駆け出した。
木枯らしが身を切る。しかし冬が来たならば、春もそう遠くない。
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冬が訪れようとっていうか、11月とかもう余裕で冬だし。試される大地なめんな。
清楚ブルー仙人こと青娥にゃん好きだわー。主役で一本書きたい。
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